ハヨ旦那転職列伝・漆 〜そしてまた詰められる〜
だいぶ空いてしまったので少し詳しい前回のあらすじ
ハヨ旦那は会社が嫌なので転職活動しようとしたら、妻が溶けていた。
「ハヨさーん！」
ハヨさん(妻)は、単身赴任先の仮住まいで、ベトベターみたいになっていた。
小さな声で何かを言っているが、人の姿になる元気は残っていないようだった。
ハヨ旦那は、ハヨさんを集めて、水筒に入れた。
そして車に乗せ、名古屋まで運転して自宅に持ち帰った。
東名高速を、ひとりで、ひたすら4時間ほど運転した。
その間ハヨさんは、最近ペルソナ5Rを買って遊んだらめちゃ面白いという話をしていたが、人の形を取り戻す気配は無かった。
翌日も、ハヨさんはドロドロのままだった。
成型される気配のないハヨさんをまたもや水筒に入れて、病院に連れて行った。
水筒を見たお医者さんは、これはいけませんね〜と、「ハヨさんは、うつ状態なので、働いてはいけません」という診断書を書いて出してくれた。
ハヨさんはこれを会社に写メ(古)して、しばらく自宅療養することになった。
それからというものの毎朝、ハヨ旦那は、ハヨさんがベッドの上でドロドロになっているのを確認してから会社に向かった。
帰ってきて確認しても、やっぱりドロドロのままだった。
ハヨさんはたまに足が生えてきて、その足でスーパーに行くこともあった。
しかし、食材だけ揃えても、料理する頃合いにはまた溶けてしまい、だいたいの場合において夕食は完成していないのであった。
ハヨ旦那は、そんなハヨさんに冷凍食品を与え、頭らしき部分をなでなですることしかできなかった。
心配だ ああハヨさんが 心配だ（字余り）
ただただ川柳を詠むことしかできなかった。
そんな日々を繰り返しているうちに、クリスマスが来て年末が来てジャニーズがカウントダウンして正月が来て芸能人格付けチェックした。新成人はそんなに暴れなかった。
そして、デパートの催し物会場がチョコの甘い香りと黒い人海の混沌に包まれ始めた。
そう、2月になったのだ。
最初は1-2本の指ぐらいしか生やしっぱなしにできず、コントローラーをポチポチやるぐらいしかできることがなかったハヨさんだが、そこから指の本数が増えはじめ、多少頭を使えるようになり、
気づけばハヨさんのペルソナ5Rの総プレイ時間は、データ上は120時間に到達していた。
手足が生えている時間も少しずつ少しずつ長くなり、最終的には毎日お散歩に行き、ごはんを欠かさず作れるようにまで回復していた。
一度やってしまうと、完全には元の状態に戻ることができないのが、うつの恐ろしいところである。
「しかたがないな！ペルソナ5Sも出るしもうちょい遊びたかったけど、そろそろ復帰するか！」
手足が生えたハヨさんは図々しかった。
ハヨさんが仕事に復帰するということは、また東京に戻り単身赴任生活が再開するということである。
さすがに仕事の負荷が上がるのは徐々にだろうが、もしハヨさん会社の匙加減がうんこで、また具合が悪くなったら…。そう思うと、ハヨ旦那は気が気ではない。
ハヨさんが 心配ですが 夜は眠れる（自由律）
「ハヨ旦那くん、一句読んでる場合じゃないよ。」
元には戻れていないハヨさんだが、悲壮感は薄れ、尊大さだけは完全復活していた。
「で？私はいつまで単身赴任すればいいわけ？ハヨ旦那くんが目指すべきキャリアプランは描けた？？」
「もちろん。ハヨさん心配の句を読むのに精神力の全てを費やしていたので、そんなことを考えている余裕は一切無かったよ！句集が出せるよ！」
「情報収集する宣言から何ヶ月経ってると思ってるんじゃい こーのバカチンがーーー！！」
ハヨさんは必殺・手足ローリングアタックをハヨ旦那にかました。
ハヨ旦那は青汁を吹いた。
「何をするんだハヨさん…床が汚れちまったじゃねぇか！！！！」
潔癖であるハヨ旦那は、ティッシュを床に撒き散らし、フキフキしながら言った。
「俺はハヨさんみたいに優秀で一流企業に入ることなんてできなければ、メンタル強者でも無いんだよ！」
そう、ハヨ旦那は第1回と変わらず、毎日22時まで残業残業の日々を送っていた。
俺には力も無ければ、余裕も無いんだ。疲れているんだ。仕方なかったんだ。
ハヨ旦那はそういう気持ちについて詠むことはせず、吐き捨てるように言った。
そんなハヨ旦那を見て、ハヨさんは何か言いかけた。
が、やめて、寝室の方へ身体を向けた。
ハヨ旦那は、ハッヨ旦那になった。
「待ってくれ、ハヨさん。何か言いかけてふて寝するのは無しだぞ。」
「いいよ、もう。」
「いや、良くない。言ってくれ。なぁ。」
ハッとしたハッヨ旦那に押され、ハヨさんは仕方なさそうに言った。
「どうせいつまでもそんなこと言い続けて、毎日文句ばっかり言いながら、10年20年ずーっといやいや同じ会社で働き続けるんだなぁ…と思って…」
ハッヨ旦那はショックダヨ旦那になった。
ハヨさんの言う通りだった。
なんか色々やった気もするが、結局第1回から何一つ状況は変わっていなかった。
ハヨさんの病気を言い訳にして、モニョモニョ俳句詠むだけだった。
自分のやりたいこと。一つだけはっきりしていることがあったのにー…。
「分かった。やりゃいいんだ。やってやるぜ…！」
次回、「エージェント・スミス」。Coming soon...
